パノラマラインに入っても勿論先頭集団を追いかける。こんなとこでレースを終わりたくない。
ただ15㎞続く登りでしかも走った事のないコース、無理は出来ない。
10名程度の集団に位置し、その集団で前を追う。
前からこぼれてきた選手追い越していく。
8㎞ほど過ぎ、飛び出してみるが、標高が高くなるにつれ強烈な向かい風を浴びる。
しかもやっかいなことに風向きが全然読めない。
結局集団内に帰り、その集団で先頭をローテーションする。
パノラマラインの半分以上を走り、その時点で結果を求めたレースは終わったなと悟る。
頂上のKOM手前で10名ほどのパックを捕まえる。
KOMを通過、脚のダメージは少なく余裕を持って下りに入る。
ニセコクラシックの下りは長く、高速で下るが道幅は広く、危険な箇所はすべてslowdownの標識が掲げられ、さらに危険なカーブはスタッフがホイッスルで知らせてくれる。
ほんと事故、怪我ないようスタッフが気を配ってくれ大変ありがたい。
ただ長過ぎる下り故、かなり寒かった。
下りでは決して危険を犯さず、集団前方付近で下っていく。
下り終え集団の数を数えるとなんと30人以上はいる雰囲気だった。
75㎞地点でスポドリを一本補給。
結局最後まで補給はこの一本のみだった。
下り終えてからは追い風のほぼ平坦区間。
ペースで集団は進む。
海岸線まで出ると折り返し。
ここからは反対に向かい風になる。
30人以上集団がいると当然協調は取れない。
わざと中切れを発生させて先頭をローテーションしないメンバーが目立つようになる。
打開したいが個人1人ではどうしようもない。
ペースも当然落ち、NPも225まで下がる。
レースなのに信じられない。
俺は何を北海道までサイクリングにしにきてるかと葛藤にかられる。
登りになったら仕掛けていってやると心に決める。
105㎞を越え、ここから最終の三回に渡る登りが始まる。
ここから仕掛ける、ずっと考えていた。
残り35㎞地点約11㎞ほど登りが始まる。
自分のレースはここからとばかり30人以上いた集団を抜け出す。
この時思っていたのは誰か釣れたらそのメンバーと最後まで行こうもしくは集団をグッと絞ってサイバルにもちこんでやろう。
350w以上で2分ほど踏む。後方を確認する。誰もついて来ず、10mほど集団と差が開く。
少し落とし320wで踏んでいく。
後方を確認するが、差は全く一緒。
後方に上がってこいと大きく手招きする。
後方集団トップは首を横に振る。
この時考えていたのが、300wの力を維持してメンバーをさらに絞っていくこととその状態で後方の集団と差が開くようならこのまま単独で逃げようということ。
しばらく10mを維持して3㎞ほど。
集団が少しづつ近く。
緩斜面になり、ジェルを補給し、さらに終盤の登りに備える。
集団が追いついてくる。
集団は15名程度。
よーしよしだいぶ絞れたぞ。
そこからも主導権は譲らない。
トップもしくはセカンドに待機してさらにメンバーをさらに絞りにかかる。
後半一つ目の坂を登りきる。
メンバーは7名に減った。
休みたい下りで集団を増やさないように。
みんなに「後ろ千切れてるからローテ回して差つけるぞ」とハッパをかける。
ハッパをかけた分、先頭に出て他の人より長くひく。
残り20㎞地点。
ここからは昨日試走したのが大きなアドバンテージになる。
最後の補給地点を過ぎ、ボトルは受け取らず勝負所だなと思っていた約10分の登りへ。
トップを譲らず330wで入る。
ただし、15㎞以上仕掛け続け、ここにきてその見返りとばかりに両脚が攣る。
流石は距離は140㎞だが獲得標高は2400メートルを超える山岳主体のコース。
横にミブロの松木さんがダンシングで並走してくる。
息がかなり荒い。
しんどいのは皆同じ。
いつも思う。この局面ではフィジカルではなくメンタルだろと。
両脚は攣り、そろそろ脚は限界かもしれない。
でも結局のところ選択肢は2つで「踏み続けるか」、「踏み止めるか」。
よくレースであぁあそこで踏めてたら集団に残ったのになぁというシーンがあるがまさにここ。
肉体的に悲鳴をあげてる中で切れそうな糸をどれだけ精神面で繋ぎ続けるか。
この北海道まできてやりたかったのはこれ。
根性対根性。
絶対に踏みやめない、攣った脚で使える部位を使い300w以上を意地で踏む。
松木さんも全く一緒。
並走して少しでもフロントタイヤを前に出すとダンシングで取り戻し、全くの並走で進む。
2つ目の坂の頂上が見える。
後ろは振り返らない。
坂の頂上を過ぎ、集団は僕を含め4名になっていた。
ロッポンギエクスプレスの菊川君はここでいなくなった。
4名は僕とミブロの松木さん、shidoの中尾君、リンリンレーシングの中野さん。
坂の頂上を過ぎても根性対決は終わらない。
たまにshidoの中尾くんがアタックするが、3名で追いかけマージンを潰す。
残り距離が気になる。
残り10㎞。
4人で等しくローテが回る。
ローテ飛ばしは誰もいない。
皆均等に厳しい表情になる。
残り距離が5㎞
意地のみでペダルを回す。
この4人集団からは絶対にドロップしない。
ローテーションを飛ばすこともしない、気力のみでローテする。
残り3㎞
ボトルに手を伸ばす行為すら億劫に感じる。
使える部位は全て使った。
残り1㎞
最後の登り。
もう空っぽだった。
3人が最後の力を込める中、出し尽くしており、自重を活かしたダンシングしか出来ない。
残り500m
右側沿道で家族3人が見える。
小学3年生の長男が力強く「父ちゃん、頑張れー!」と応援してくれる。
遅くなってしまい申し訳ない。
ただ父ちゃんは一生懸命やって出し尽くした、こんな姿をいつまで覚えていてくれるだろうか。
ゴールゲードをくぐる。
リザルトは取れなかった。
全くの実力不足だった。
ただせめてやりたかった最後の一滴まで絞り出すレースは出来た。
終盤から仕掛け続け、後方の集団のなかでもレースを作れたことは自信になったし、何より楽しかった。
こんな気持ちにさせてくれるレースに出られて良かった。
日頃から子供の面倒をほんとよくしてくれ、サポートし続けてくれた両親に感謝したい。
妻は食事の面からサポートしてくれ、あくまでも家族、仕事あっての趣味のロードバイクなのに僕のライドに関する不満は一切言わなかった。
数少ない家族旅行である今回の北海道もすべてレース中心で考えてくれた。
ほんと周りの環境に感謝しかない。
ゴール後、長男から僕がゴールするまでに摘んだ花をもらって胸が熱くなった。また違うレースで結果を出して家族皆で笑えたらと思う。